追い求めていた
自然な環境で作られた卵
■自分の目で全てを確かめて一から作ろう
卵油のことがいろいろとわかって来た時に、大きな問題がふりかかってきました。それは、鳥インフルエンザの発生です。
自然養鶏をしていたところが次々と廃業し、規模の大きなところは、全ての鶏を鶏舎に閉じ込める対策をとるようになりました。卵油作り方教室で「いい卵を手に入れて卵油を作ってください」と言っているのに、肝心ないい卵がどんどん手には入りにくい状態になってしまったのです。
柴山が愛用していた卵油も例外ではなく、自然とは全く無縁の養鶏になってしまいました。仕方ないのかもしれません。しかし、自然の中でノビノビ育つ健康な鶏の卵で作る卵油には、ほど遠いものになってしまい、飲み続けたいとは思えなくなってしまったのです。これが大きな転機となりました。
心は決まりました。もっといい卵油を、薬を一切使わず自然な環境で育てた卵で作りたい。一生飲み続ける卵油だから安心できるものがいい。困っている人やつらさを抱えている人たちに自信を持ってすすめられるものが欲しい。みんなの悩みを解決するために、自分の目で全てを確かめて一から作ろう、と卵油の製品作りに取り組み始めたのです。
■薬を使わない自然な卵を求めて
市場に出回っている卵油よりももっといいものを作ろうと思うと、原料の卵を見つけることが第一の課題です。探せばすぐに見つかるだろうと思っていました。ところが、これはと思うような自然な卵は簡単には見つかりません。残念なことに昔のものとは違って、今の卵は想像以上に人工的なものになっていたのです。
例えば卵黄の色。昔はもっと薄い黄色で今のような赤い色は嫌われていました。ところが、色が濃いと味が濃いように感じる事から、昔の黄身の色とはぜんぜん違います。これは鶏に赤い色素のもとになるものを食べさせているから。というのも卵黄には、鶏が食べたものがそのまま成分として出てしまうのです(青い色素を食べさせると青い黄身の卵ができます)。
色素以外にも薬品や添加物を使っていれば、それはストレートに黄身に出てきます。卵油は長い時間火にかけて作るので、卵黄に含まれた薬品がどのように熱で化学変化するのかがわからない怖さがあります。もっといい卵油を作るには、昔のように薬品を使わない自然な餌で育てられた親鶏が産む、自然で生命力がある卵を見つけるしかありません。
ところが、柴山が実際に探してみるとこの条件に当てはまる卵が、なかなか見つかりません。一般に流通している「配合飼料」には添加物が入っているし、抗生物質や抗菌剤などの薬品を使うことが常識なのです。今後何十年も自分の健康のために飲み続ける卵油です、そんな不自然な卵で作りたくはありません。
■写真だけではわからない臭いの問題
また自然養鶏をうたっている養鶏場もずいぶん見てまわりましたが、どこも共通の問題がありました。写真で見ると素晴らしいのですが、実際に行くと悪臭がするのです。薬を使っていないのはいいのですが、地面は糞だらけ。自然界なら微生物が分解してくれるのに、微生物が働かないためとても不衛生な環境で、卵油作りにふさわしい健康な親鳥が産む卵ではありません。
不自然な環境でストレスにさらされた生命力のない卵が原料では、本物の健康を作る卵油ができるとは、とても思えませんでした。こうして、初めの一歩である卵探しから挫折を繰り返し、いきなり大きな壁に直面してしまいました。
もっといい卵油を作ろうと思ったけれども、ふさわしい卵なんて日本には無いのかもしれないと半ば絶望的な気持ちになっていました。そんな時に、沖縄県南城市のみやぎ農園が、薬を使わずにいろいろな問題を見事に解決していることを知ったのです。はやる心を抑えながら、さっそく現地に飛びました。
■沖縄で出会った生命力あふれる平飼い自然卵
かつて近代的な薬漬け養鶏をしていた宮城盛彦さんですが、当時は風邪を引きやすく治りにくい上に、体調を崩してばかりいました。ある時、薬の効かない病気になった鶏が土や草をついばんで元気になるのを見て、「自然の中にこそ答えがある」と、生命力の大切さに気づいたのです。それを機に180度転換して自然養鶏を始め、薬を一切使わず自然の生態系を活かした循環型農業で健康な鶏を育てています。
柴山が最初に鶏舎に入った時は、全くニオイがしないどころか森の中にいるようなさわやかさに、大変驚かされました。住んでいる鶏たちも実に穏やかで幸せそう。森に住む微生物を鶏舎の中に住まわせて、鶏糞はその微生物のエサになり、自然の健康な生態系がそこにはあったのです。
さっそく卵油作りをしてしばらく飲んでみると、確かな手応えを実感し、期待以上の結果を手に入れることができました。
「ついに、自分が探し求めていた理想の原料を手に入れることができた!」この感激を多くの人に体験していただきたいと、みやぎ農園の平飼い自然卵で作った卵油の製品作りに取り組みはじめました。
■薬の怖さを知っている者同士の共感の輪が広がる
もともと東京近郊で卵油作りをすることを想定していたため、沖縄から卵を輸送すると、割れたり鮮度が落ちて品質が劣化したり、輸送費などのコストがかかるなどの問題がありました。コストや効率だけを考えれば、東京近郊で卵を調達する方が良いのですが、やっと見つけた生命力あふれる卵の供給元は沖縄県の南城市です。
卵油の製造場所をどうしようかと柴山が悩んでいる時に出会ったのが、八重瀬町で農家をしている上地喜清さんです。縁とは不思議なもので、薬を一切使わない卵を沖縄で見つけた柴山が沖縄での卵油作りを考えていることを知り、サトウキビなどの畑に囲まれた小高い丘の上にある土地を貸してくれることになりました。
上地さんは、かつて大量に農薬を使う電照菊を栽培していたためどんどん体調が悪くなり、「このまま続けていたらもうすぐ死ぬ」と思うほど体調を崩し、菊作りをやめてしまいました。農薬や化学肥料など薬の害を身を以て知る上地さんが、柴山の取り組みに理解をして協力を申し出てくれたのです。
■畑の微生物で堆肥化されゴミはゼロ
土作りから無農薬で農業をするようになった上地さんの畑には、微生物などの生態系が甦り、大地の生命力が回復したのです。それと同時に上地さん自身の健康も回復していました。
そんな上地さんとの出会いは、もう一つ大きな問題を解決してくれました。卵油を作る際に出る殻や卵油の搾りかす、使わなかった卵白などを引き取ってくれるというのです。無農薬で野菜作りをしている上地さんは、薬を一切使っていないみやぎ農園の平飼い自然卵なら、堆肥にしていいと言ってくれたのです。
産業廃棄物としてのゴミを出したくなかった柴山には、微生物の力で全てを土に還してもらえることは、本当にありがたいお話でした。
宮城さんの自然養鶏と同じように、上地さんの無農薬農業も微生物など自然が持っている生態系の力で成り立っています。こうして、沖縄の豊かな自然環境が与えてくれる恩恵のおかげで、「ちえの輪卵油」の製造を実現することができました。
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